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カズ誕生

12月14日水曜夜。寒波が東京にもやって来ていて、とにかく寒い一日でした。中国出張の予定が前日にキャンセル、偶然この日は日本に残っていました。午後8時半から同僚の結婚祝賀パーティー(飲み会)、そこから会社に戻り、午後10時に来客と、結構忙しいスケジュール。夜、パーティーの時間が近づいたので、目黒駅近くの居酒屋に。先ほど書いたように10時に来客予定だったので、お酒は軽く、とりあえず、お祝いムードを出すことに専念していました。お店が地下だったので、携帯が繋がらないのを気になったのですが、そこはめでたい席、10時までの1時間半はあっと言う間に過ぎてしまいました。主役への途中抜けすることを詫びて、お店を後にし、階段を上り地上へと出ました。お店の前は、比較的大きな通りだったので、2,3分でタクシーがつかまり、一路会社へと戻ります。タクシーに乗ってすぐ、今まで着信できなかった、携帯メールやら着信履歴の記録やらが、僕の携帯に一度になだれ込んで来ました。そして、何度目からの「ピピ」というアラートに乗って、奥さんからのメールが届きました。

予定日は12月26日だったのですが、昼間、少しお腹が痛いと言っていたので、気になってメール開くと、なんと、「陣痛が始まったみたい」という一行。なんと簡単なメールだろう、と感心しつつ、しかし、陣痛で字が打てないのかも、という不安も同時に過ぎります。メールの時間を確認すると「21:49」、10分ほど前です。慌てて彼女に電話をします。すると、横になっているのか、幾分話しにくそうなか弱い声でしたが「陣痛の痛い間隔がまだ少しあるので、大丈夫だと思う」という言葉が。痛いさが5分おき位に来るとお産が近くなった証拠だそうです。とりあえず、一旦はその言葉を信じ、気が気でない中、10時からの来客を済ませ、そのまま自宅へ。会社から自宅までは自転車で10分ほど。帰り着いたのは、11時を過ぎていました。

自転車家を置いて、マンションのエレベータを上り、家のドアを開けます。「ただいま」という僕の問い掛けに、、、返事なし。部屋を見渡すと、彼女はリビングのカーペットの上で横になっていました。かなり痛そう。近寄って見ると、彼女の手元には、陣痛の間隔をメモした紙が。その紙を見ると陣痛の間隔が4,5分になっています。彼女に声を掛け、病院に電話をかけてもらいました。彼女の口から病院側に状態を伝えると、そのまま病院に来るよう指示が出ます。とりあえず、僕は、彼女がパジャマなどを紙袋に入れた、入院セットを2つ、車に移動させます。そして、まるで足が痺れているかのように、ゆっくりとした動きしかできない彼女に付き添って、エレベータに乗り、マンションの玄関を開け、車へと乗せました。

車は、目黒から恵比寿を通り過ぎて、入院予定の病院へ。病院入り口の救急車が停まる位置に、車を停めて、彼女を病院内へ連れて行きます。時間は夜の11時21分。病院の入り口は最小限の明かりだけが点いていて、薄暗い感じ。まずは、僕だけが車から降りて、病院の入り口付近のカウンターに座っている警備員に状況を説明します。病院では日常的に起きている事なので、警備員は、ただただ事務的な対応。まずは、彼女が受付を終えて、一足先に産科へと移動します。その間僕は、車を駐車場へと移動させていました。

再度薄明かりのエントランスで、さっきとは別の警備員に産科の行き方を教えてもらいました。薄暗く、薄気味悪い病院内を、小走りで産科へと向かいます。途中では彼女に追いつかず、結局、産科のナースステーションまで辿り着きました。カウンターの中にいる看護婦さんに、自分の身分を説明しようと思い、「黒田の旦那です」あれ?旦那は変か?「黒田の夫です」か?とか考えているうちに、変な間を作ってしまい、「黒田ですけど」という最もシンプルな説明をしてしまいましたが、もちろん、看護婦さんは誰の事だかすぐ理解し、「そこのソファーに座って待っていてください」という適切な指示を与えてくれました。看護婦の指が指している方向を見ると、ほとんど明かりが届いてない廊下の中央にソファーがひとつ置いてあります。看護婦にお礼を言い、歩いてソファーに座ると、まるでドラマの1シーンのような気持ちになってきます。何人のお父さん(候補)がこうやって暗い中待っていたのかな、としばらく感慨に耽っていたのですが、すぐに空想に飽きてしまい、読みかけの重松清の小説を手提げ袋から取り出します。家を出るときに小説を持って出るなんて俺って、以外と落ち着いているよな、と、独りごちてみましたが、残念ながら、小説を読むには暗すぎる。それでもしばらくは、ナースステーションの明かりを本に当てるように読んでいました。ナースステーションの方にたまに目を向けると、もう一組、同じように陣痛が始まっている夫婦が居ました。旦那さんが奥さんを支えながら、歩きながら行ったり来たりしています。

本も結構進んで、こんな暗い中、これ以上本を読んでいると視力が落ちるんじゃないか、と不安になって来た頃に、奥さんに付き添っていた看護婦さんが呼びに来てくれました。看護婦さんの案内で、カーテンで仕切られた、比較的狭い部屋に入ります。部屋の中には、幾つかの計器と、壁際には小さめのベッドがあります。奥さんは、服を着たまま、そのベッドの上で壁を向く形寝ていて、計器からは線が2本、彼女のお腹に方に繋がっています。僕が声をかけても、痛さのため、ちゃんと反応できません。ゆっくりと彼女の手が僕の方に伸びてきて、僕もその手をゆっくりと握りました。彼女は痛くて、体中に力が入り、時々、「痛いよー」「うー」という小さな声を発しています。ただ、看護婦さんの話を聞く限り、まだ本物の陣痛ではないようです。通常、お腹の張りが20秒ほど続くと本物の陣痛=お産となるらしいのですが、彼女の場合、5秒程度。部屋も移って、二人目の助産婦さんも来て見てくれたのですが、半分笑われ、「こんなのまだまだよ」「本人の意識の中で、1分位痛みが続いている感覚じゃないと、産まれないわよ」(この「1分位の感覚」を、うちの奥さんは「間隔」と勘違いし、後で惨事へとつながるのです。。。)などと言われ、最後には、「旦那さんは明日会社に行けると思いますよ。」「これで朝産まれたら、奇跡です。」とまで言われる始末。ただ、彼女が痛がっているので、念のため入院することに。助産婦さんの勧めで、彼女はお風呂に入る事になったので、それを機会に僕は帰る事にしました。

病院の入り口まで戻り、外に出ると、夜中の冷たい風が体の中を通り抜けます。とりあえず、僕と彼女の実家には電話を入れ、まだ産まれない事を報告しました。家に着いたのは午前2時を過ぎたところ。コンビニの弁当だけを食べて、風呂には入らず、そのままベッドで横になりました。

明け方、電話の呼び出し音で慌てて起こされます。急いで受話器を取ると、病院から。時間を確認すると午前6時30分を過ぎたところ。昨日の助産婦さんの声で「今分娩室に移動しました。立会いは必要ないと言うことでしたけど、近くには居てほしいと言うことなので、病院に来てください。」という言葉が。「ん?」今朝産まれたら奇跡だったんじゃ?そんな簡単に奇跡って起こるのか?とりあえず、風呂に入り、重松清の本を持って、家を出ます。外は昨日にも増して気温が低く。しかし快晴。まだ体が起き切れてないのと、部屋と外との気温差に、ふらふらになりながらも、兎に角、車に乗り込みます。

電話をもらってから40分ほどで病院に到着。入り口で受付を済ませ、廊下を産科へと向かいます。夜は薄明るい病院が、朝は薄暗い病院へと変わっていました。産科のナースステーションの前に来ると、またしても、自分の地位をうまく表現できず、出た言葉が「黒田の関係者です」。我ながら変な自己紹介だと思ってシドロモドロしていると、左の通路から、「黒田さ~ん!」と呼ぶ声が。あの助産婦さんです。「もう頭が少し出ていますよ。早くこちらに。」、、、「え?頭?誰の?え?子供の?え?早くないか?」などと驚きやら困惑やらが頭の周りをクルクルしながら、呼ばれるまま、誘導されるまま、分娩室へと入っていきます。

明るい室内には、ベッドに横たわる奥さんが。腰から下には緑の布がかけてあり、その向こうには、お医者さんと看護婦さんが二人。そして、僕を案内した助産婦さんは、僕に丸椅子を出してくれると、そのままお医者さんの方へと移動していきます。横たわっている彼女に目を戻すと、苦痛に顔を歪め、両手で入り口側のベッドの手すりにしがみついています。多分、僕が来たのは気づいていると思うのですが、声などは出ず、僕の方に目を向けるのがやっと。僕は椅子に座り、手すりにある彼女の両手を包むように握ります。彼女は小さな唸り声を上げながらも、お医者さんや助産婦さんの言うことをちゃんと理解して、いきんだり、力を抜いたりを繰り返します。彼女は小さな唸り声と、弱々しい声で「痛いよ~痛いよ~」を繰り返しています。でも、本当は声を張り上げたいくらいの激痛なのだと思います。人一倍周りに気を使う彼女は、こんなときですら「迷惑かけちゃいけない」と思っているらしく、必死に痛みに堪え、周りの人の言うことを守ろうとしていました。10分ほど経過したとき、「上手、上手」という助産婦さんの声と一緒に、赤ちゃんの頭がスルっと抜け、外へと出てきます。時刻は7時20分。彼女は、赤ちゃんが完全に外に出たのが分かると、かなり安堵した様子。そして痛みと達成感で、顔はくちゃくちゃ、目からは大粒の涙。本当に「良くがんばったね」「ありがとう」

赤ちゃんと彼女を繋いでいたへその緒が切られて、彼女の胸からお腹にかけて、産まれたての赤ちゃんを乗せてもらいました。さっきまで泣いていた赤ちゃんが、ママの上に乗っかると、またスヤスヤ寝始めます。不思議ですね。

しかし、彼女の出産はまだ終わっていませんでした。胎盤です。彼女の体は、子宮から剥がれた胎盤を外へ出そうとしていて、それがかなりの苦痛を伴っている様子。赤ちゃんで苦痛は終わりと思っていた彼女は、その後の痛みを予想しておらず、耐える余力が残っていません。お腹の上に赤ちゃんが乗っているのに、心そこにあらず。むしろ、お産の時よりも声を張り上げ、苦痛を訴えていました。30分ほど痛みに耐えて、なんとか、胎盤が完全に外に出ました。やっと痛みもある程度納まって、彼女も少し落ち着きを取り戻したようです。

後で話しを聞くと、彼女は陣痛の痛いと感じる時間が1分になるまで、じっと我慢していたようです。看護婦さんを呼んで「まだまだ陣痛じゃないわよ」と言われるのは悔しいので、朝まで一睡もせず、ひたすら痛さの時間だけを数えていて、20秒位の陣痛が何度も続いて、気を失いそうになったので、ナースコールしたそうです。あの助産婦さんは、サバサバしているのはいいのですが、話し方にトゲがあって、ちょっと嫌悪感。初産なので、やっぱり不安だし、もう少しデリカシーがあってもいいと思います。うちの奥さんも変に負けず嫌いなので、お産の直前に看護婦からの「少し眠れましたか?」という質問に、「少しだけ寝ました」と答えたみたいです。一睡もしてないのに。。。意地を張るところが少し違うような、かわいいような。

とりあえず、母子ともに健康で、なによりでした。赤ちゃんは、男の子です。彼女の場合、安産の部類に入るようですが、母親は、みんなあの痛みや不安を乗り越えたのかと思うと、頭が下がります。

このブログも、子育てブログになりそうです。


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↑産まれてすぐ、お母さんのお腹に乗せられるカズ
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↑ベッドで欠伸!?
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↑熟睡中



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by etrojan2002 | 2005-12-15 07:20 | 親として